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排尿トラブルの要因の一つが「排尿に関係する筋肉の弱り」。特に女性は男性よりもともと筋力が弱い上、妊娠出産時の腹部への負荷や、更年期以降の女性ホルモン低下も悪化の要因に。 そこで近年注目されているのが、ピフィラティス™というトレーニングです。女性医療のエキスパートでもある女性泌尿器科専門医 関口由紀先生にお話しを伺いました。

40、50代から増える尿トラブル まずは筋トレと食事でセルフケアを!

40、50代から増える尿トラブル

トイレが近い、スッキリしない、漏れてしまうetc. こうした排尿の悩みは、女性は40代後半から、男性は60歳代から増えてきます。 その大きな要因の一つが「排尿に関係する筋肉の弱り」。特に女性は男性よりもともと筋力が弱い上、妊娠出産時の腹部への負荷や、更年期以降の女性ホルモン低下も悪化の要因に。 そこで近年注目されているのが、全身の筋肉トレーニングで排尿に関わる筋肉の活性化をめざす、ピフィラティス™というトレーニングです。女性医療のエキスパートでもある女性泌尿器科専門医 関口由紀先生にお話しを伺いました。

1.頻尿、尿もれ、残尿感、症状はさまざま。でもすべてのベースに「筋力の弱り」がある

人間の臓器は基本的に、外側を皮膚・粘膜が覆い、その下にコラーゲンなどでできた臓器の支えとなる皮下組織、そして筋肉があります。そのすべてが、加齢とともに自然な老化現象として弱ってきます。皮膚・粘膜は薄くなり、皮下組織のコラーゲンも減少し、筋力も弱るため、全体的に組織の支えがもろくなっていくのです。

それが泌尿器で起こると、さまざまな尿トラブルのもとになります。疾患で分けると下図のようになり、妊娠出産時に組織がダメージを受けていたり、膀胱が過敏になったりといった個々の疾患に特有の要因はあるものの、尿を適切にためたり、残さず出し切ったりする筋力の弱りは共通しているのです。

これらを担う筋肉やじん帯などの組織を総称して「骨盤底」といいます。「骨盤底」というプレート臓器の重要な構成要素が「骨盤底筋群」です。女性の場合40歳以降、これらの筋肉量が減ってきます。また女性ホルモンの減少により筋肉の上にある粘膜下組織のコラーゲンが減少し、骨盤底がたるんできます。さらに50歳前後で更年期を迎え女性ホルモンが低下すると、腟粘膜が薄くなり乾燥しやすくなったり、酸性からアルカリ性に傾いたりするなどで、炎症が起こりやすくなります。この粘膜・粘膜下組織・骨盤底筋群の不具合が、排泄のトラブルの原因になるのです。

排尿回数は1日4~8回が標準です。回数が多くなると尿意がますます強くなるほか、尿道への菌の感染リスクも高くなると言われています。

女性に多いおもな尿トラブル

  • 腹圧性失禁:
    くしゃみや咳など、お腹に力を入れた際、尿が漏れてしまう。経産婦に特に多く、出産時に骨盤底筋群が傷み、加齢とともに弱りが進んで悪化する。
  • 過活動膀胱:
    尿が膀胱に少ししか溜まっていないのに漏れそうなほど強い尿意がある。頻尿になる原因疾患でもっとも多い。
  • 膀胱痛症候群:
    尿が膀胱にたまると痛みや不快感があり、早く排尿したくなる
  • 神経性頻尿:
    尿意はそれほどでもないのにトイレが気になり回数が多くなる。
骨盤底筋群

骨盤底筋群

骨盤底は、恥骨から尾骨までハンモックのようにわたり、下から臓器を支えている骨盤底筋群やじん帯、筋膜を含むプレート臓器。加齢や出産で弱りやすく、更年期以降の女性ホルモンの低下で弱りが加速するとされる。

人生100年時代。更年期後のカラダ、もっと快適に!

更年期を境に、女性ホルモンの分泌低下により次々と心身に起こる不快な症状。このうち排尿も含むデリケートゾーンのトラブルを総称してGSM(閉経関連尿路生殖器症候群)といいます。かゆみや乾燥感などはかつて老人性腟炎と呼ばれ、医療の現場でも「歳をとれば仕方がない」「命には関わらないから」と軽視されがちでしたが、米国とヨーロッパではQOLを著しく落とし、パートナーとの問題にも発展するなどで積極的な治療が重要であると言われており、日本でもここ1、2年の間にそうした考えが女性泌尿器科や婦人科を中心に広まってきています。

日本も今や女性の2人に1人が90歳を超える現代、不便さや不快感はできるだけなくし、どんどん長くなる高齢期をストレスフリーで過ごしたいもの。国内にもGSMの観点で治療やアドバイスができるレディースクリニックが増えつつありますので、一人で悩む前に相談を。

更年期後のカラダ

2.骨盤底筋群を強化する「ピフィラティス™」 1日5分の習慣でヒップアップも

どのような尿トラブルであれ、女性の場合はまずセルフケアとして、骨盤底筋群のトレーニングが勧められます。近年、「ピフィラティス™」と呼ばれるトレーニングメニューがメディアでも取り上げられていますが、これは120のピラティス、ヨガ、その他トレーニングにおける体の動きを研究し、特に骨盤底筋群を大きく刺激する10個のトレーニングで構成したものです。

中でもランジとスクワットは主軸。毎日の習慣にすることで尿トラブル改善のほか、ヒップアップ効果、代謝アップも期待できます。

1.ランジ

ランジ
  1. 画像のように、脚を大きく踏み出し、大きく歩幅をとった姿勢を繰り返す。つま先やひざは正面を向くようにする。踏み出し回数は、3回⇒5回⇒10回と筋力アップとともに増やしていく。
  2. 次に前の足の太ももと後ろの足のふくらはぎが水平になるまで落としたら3秒(筋力アップとともに5秒⇒10秒と延長)静止。このときお尻や尿道、腟のあたりを意識して締めるようにするとなおよい。
  3. 最後に細かく膝を曲げ伸ばしして、体を3回(筋力アップとともに5回⇒10回と回数増加)上下させる。
  4. 1~3を、足を替えて同様に行う。

2.スクワット

スクワット
  1. 画像のように両脚を腰幅程度に開き、画像のように腰を落とす。つま先やひざは正面を向くようにする。3回⇒5回⇒10回と筋力アップとともに増やしていく。
  2. 後ろに倒れない程度まで落としたら、3秒静止(筋力アップとともに5秒⇒10秒と延長)。このときお尻や尿道、腟のあたりを意識して締めるようにするとなおよい。
  3. 最後に細かく膝を曲げ伸ばしして、体を3回(筋力アップとともに5回⇒10回と回数増加)上下させる。

ポイントは、両方ともまずはゆっくりした動作で運動、次に腰を落としたら静止し、そのあと上下に細かく反復運動すること。筋肉には姿勢の保持に大切な遅筋と、素早い動作に大切な速筋がありますが、ゆっくり運動+静止+細かい反復運動により、膀胱を支える遅筋と、排尿時に尿道を収縮させる速筋の両方が鍛えられます。

男性の尿トラブルは、早目の受診でメリット大の可能性が

男性の場合、筋力の低下は女性よりも遅く、70歳以降から顕著になるとされています。しかし長生きになったからこそ、70歳を過ぎたときのために鍛えておくことは大切です。

それより前の50、60代が抱えるトイレの悩みのほとんどは、前立腺肥大症が考えられます。男性は女性に比べ尿道が長く、しかも前立腺がついているという特徴があります。これらのために尿道が圧迫されやすいので、排尿しにくいことが原因のトラブルが多くなります。前立腺肥大症の初期症状は、わずかに尿道の抵抗が上がったことによる膀胱の知覚過敏で、トイレが近くなります。

2014年に、ザルティアという薬が前立腺肥大症による排尿障害で保険適用となりました。この薬は骨盤内の血流を良くし、血中の一酸化窒素濃度を上げることで抗酸化作用もあるので、前立腺肥大症の治療とともにアンチエイジングも期待できますし、ED治療薬に同じ成分が使われていることもあり、間接的にEDも改善される可能性があります。

男性の場合、初期の排尿トラブルは、前立腺肥大症の可能性が高いので、早めに受診する方が、メリットが大きいと言えるでしょう。

3.豆製品、炭酸も! “膀胱を刺激する食品”は摂り過ぎに注意

運動以外のセルフケアでは食事の見直しが重要です。尿量に大きく影響するのが一日の飲水量。スポーツをしている人でなければ、春秋は1.5リットル、冬は1リットル、夏は2リットルを目安にしましょう。

また、「カフェイン」「アルコール」「柑橘系」「炭酸」を含む飲料は膀胱粘膜を刺激するため控えめに、居酒屋の定番「グレープフルーツチューハイ」はこの点では望ましくないメニューといえるでしょう。

食べ物では、トウガラシなどカプサイシンを含む辛いもの、酸っぱいもの、発酵食品、豆の加工品(ナッツ類、チョコレート、豆腐や豆乳など)は膀胱粘膜への刺激作用があります。粘膜の強弱には個人差があり、強い人なら食べ過ぎても影響は出ませんが、弱い人ではトイレが近くなるので、そうなって困る場面では摂取を控えましょう。

医療機関での治療は?

セルフケアをしてみても改善せず、生活に不便さを感じるなら泌尿器科の受診を。婦人科や更年期外来をメインとするレディースクリニックにも、尿トラブルを診るところが増えています。

医療機関では、過活動膀胱であれば膀胱の過剰な収縮を抑える薬といったように、症状に応じた薬物治療や、膀胱に尿をためる自律神経訓練(膀胱訓練)、排尿に関わる靭帯や筋膜を強化する外科手術やレーザー治療などが検討されます。

更年期以降の女性は、先のGSMの悩みを併せ持っているケースが多いため、ホームページなどを参考に、女性ホルモン低下による諸症状に理解があり、QOL(生活の質)を高める治療に熱心なクリニックを選ぶと良いでしょう。

お話を伺った方

関口由紀先生プロフィール

女性医療クリニックLUNAグループ理事長
女性泌尿器科医

関口由紀先生

日本泌尿器科学会専門医、日本排尿機能学会専門医、日本性機能学会専門医。山形大学医学部卒、横浜市立大学大学院医学部泌尿器病態学修了。平成17年 横浜元町女性医療クリニック・LUNA開業以来、女性の尿トラブルや性の悩みをはじめ、女性ホルモンの変動による心身の症状全般を診療範囲とし、QOL向上に力を尽くしている。

平成30年、横浜地区のクリニックを統合して、女性医療クリニックLUNA 横浜元町(生殖年齢女性対象クリニック)と女性医療クリニックLUNA ネクストステージ(更年期以降の女性対象クリニック)を開設。女性の健康を閉経前と閉経後に分けて診療科を越えたトータルな医療を提供することもめざしている。メディア出演、著書多数。最新著書は『女性の尿もれ・頻尿は骨盤底筋を鍛えて防ぐ!』(PHP研究所)。

女性医療クリニックLUNAグループ ホームページ

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福田真由美様プロフィール

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