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子どものころ「よく噛んで食べなさい」と、家庭や学校で教えられた人も多いことでしょう。食べ物をしっかり噛んで味わうことは、単に消化をよくするだけでなく、全身の健康に大きなメリットが。健康効果やよく噛むためのお口のケアを、歯科医師に伺いました。

からだにいいこと、たくさん!「よく噛んで食べる」は健康の入り口

誤嚥性肺炎を防ぐ

子どものころ「よく噛んで食べなさい」と、家庭や学校で教えられた人も多いことでしょう。食べ物をしっかり噛んで味わうことは、単に消化をよくするだけでなく、全身の健康に大きなメリットが。健康効果やよく噛むためのお口のケアを、歯科医師に伺いました。

脳イキイキ、免疫力アップも!

良く噛んで食べると体に良いということは、経験的に知られていますが、実際にはどうなのでしょうか。さまざまな研究から、免疫力や脳活性など「元気で長生き」をサポートする健康効果がわかってきています。

  • 消化吸収の促進
    噛めば噛むほど、食べ物は細かくなり断面積が増えます。その分、唾液などに含まれる消化酵素がふれやすくなるので、消化吸収が効率よく行われるように。胃腸への負担も軽くなるといえます。
  • むし歯、歯周病の予防
    良く噛むことで細かくなった食べ物が、歯面や歯間の汚れや歯垢をこそげ落とす歯ブラシのような役割を果たしてくれます。特に繊維質の野菜を噛むとこうした自浄作用が期待できます。
    また、良く噛むと唾液の分泌が増えることも大きなメリット。唾液が口内をうるおすと、歯間などの食べ物を洗い流してくれるからです。また、唾液に含まれるカルシウムイオンには、再石灰化といって、ごく初期のむし歯※を修復してくれる働きもあることがわかっています。
    ※歯の表面からミネラル成分が溶け出し(脱灰)、スカスカになっている状態。
  • 免疫力アップ
    唾液の成分には、IgAやラクトフェリンと呼ばれる、抗菌作用のある物質が含まれており、病原体を体内に入れないよう防御してくれます。
  • 脳活性にも……!
    噛むことで口の中が受ける、味覚や触覚、温度感覚などのさまざまな刺激は、よく噛むほど脳へたくさんの情報として送られるため、脳の活性化につながります。
    よく噛んで脳へ味覚などの情報がたくさん送られると、脳の中で特に記憶力に関係する海馬にも、いい影響を及ぼすという研究報告もあります。
    また、噛む動作は歯ぐき、歯、顎、舌など口の中のさまざまな器官が脳からの命令のもと、巧みに連携しあって行われているので、よく噛むほど脳を鍛えていることになるといえるでしょう。

口に入れてから飲み込むまでは、一連の動作

食べることは普段何気なく行っている動作ですが、専門的には五感で食べ物を認識してから口に入れ、噛み砕いて飲み込むというプロセスがあり、一つでも機能が低下すると健康に悪影響が及びます。よく噛むことは、飲み込み(嚥下)を容易にし、食道から胃へと食べたものをスムーズに送り込むのにとても重要なプロセスなのです。

摂食・嚥下のプロセス

肥満や高血糖対策にも「良く噛む」は大事

噛む回数が多いと、満腹感を得られやすく食べすぎによる肥満の防止にもなります。また、成人男性を対象にした英国の研究で、ピザを1口ごとに15回噛む群と、40回噛む群に分け、それぞれ同量のピザを食べてもらい、血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌量を調べたところ、後者の方が明らかに多かったという報告も。血糖値が気になる人も、まずは「よく噛む」を習慣にしてみてはいかがでしょう。

グラフ

○が1口につき15回噛んだ群、●が40回噛んだ群。多く噛んだ群の方が、食後のインスリン(血糖値を下げるホルモン)の分泌量が多い。
(出典:British Journal of Nutrition (2013), 110, 384–390)

噛む効用は「卑弥呼の歯がいーぜ」

日本の研究では、現代人は1回の食事につき約600回噛んでいるのに対し、卑弥呼がいたとされる弥生時代は、約4000回も噛んでいるとの報告が。これをうけて日本咀嚼学会ではよく噛むことの効用を「卑弥呼の歯がいーぜ」という標語にまとめています。

ひ:肥満予防
み:味覚の発達
こ:言葉の発音がはっきり
の:脳の発達
は:歯の病気予防
が:(免疫力アップによる)がん予防
い:胃腸の快調
ぜ:全力投球

良く噛むためにはお口のケアと体操を!

「良く噛む」の目安は一口30~40回。そのためには第一に、歯がきちんと噛める状態であることが大切です。むし歯や歯周病のために痛みや歯のぐらつきなどがあると、うまく噛めませんのできちんと治しましょう。また、義歯がしっくりこない、噛み合わせが気になるといったことも、噛む力に影響しますので一度歯科へ相談を。

そして、唇や舌などの、口全体の動きをよくすることも大切です。
医療機関でも行われているトレーニング法の一つが「パンダのたからもの」。下記も参考にして、一音一音、しっかり口を動かして発してみましょう。滑舌の改善にも役立ちます。

嚥下力トレーニング

※早口言葉ではありません。ゆっくりしっかり口や舌を動かすことを意識してください。

また、加齢とともに唾液の分泌が少なくなりがちなので、唾液腺マッサージを習慣に。「耳下腺」「顎下腺」「舌下腺」があり、マッサージすることで唾液の分泌が促されます。

嚥下力トレーニング
  • 耳下腺
    耳たぶのやや前方あたりの頬に親指以外の4本の指をあて、軽く押し回しします。
  • 顎下腺
    頬からあごにかけての、下あごの骨の内側に親指の腹を軽く押し当てます。
  • 舌下腺
    あご先の、下あごの骨の内側に親指をあて、軽く押し上げます。
    注意:ぎゅうぎゅう力をこめたりせず、優しくさすったりおさえたりしましょう。

お話を伺った方

柴野荘一(しばの そういち)先生プロフィール

東京医療保健大学
医療保健学部 医療情報学科 講師

柴野荘一(しばの そういち)先生

歯学博士、医療政策学修士、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、介護口腔ケア推進士。

東京医科歯科大学大学院にて高齢者歯科学および医療管理政策学(MMA)を学び、総合病院や歯科診療所で歯科治療とともに摂食嚥下障害の評価とリハビリテーションに携わったのち現職。昭和女子大学人間社会学部福祉社会学科言語聴覚士コース講師兼務。摂食嚥下に関する研究に加え、チーム医療の推進に向け、歯科衛生士等各種医療スタッフの業務分担や規定についての研究も行っている。

記事執筆

福田真由美様プロフィール

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