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高血糖は血液中のブドウ糖濃度が高い状態を指し、さらに進んで糖尿病になると全身にさまざまな悪影響を及ぼします※。健康診断などで高血糖を指摘されたら要注意。対策には栄養バランスのとれた食事と適度な運動が基本となります。そこで、今からはじめたい「高血糖」対策を専門家に伺いました。

野菜から食べる、食後に散歩
今からはじめる「高血糖」対策

今からはじめる「高血糖」対策

高血糖は血液中のブドウ糖濃度が高い状態を指し、さらに進んで糖尿病になると全身にさまざまな悪影響を及ぼします※。健康診断などで高血糖を指摘されたら要注意。対策には栄養バランスのとれた食事と適度な運動が基本となります。

※糖尿病には大きく1型(インスリン分泌不全)、2型(遺伝的体質と生活習慣が原因)、その他(がん等によるすい臓全摘、薬剤性、感染症、特異的な遺伝から二次的に生じたもの)、妊娠と関連した糖尿病 の大きく4つありますが、本記事では2型糖尿病について取り上げます。

血液にだぶついた糖が健康寿命を脅かす!?

 食べたものが分解されて生じた糖は血流中に溶けて肝臓へ運ばれたのち、全身をめぐっています。糖は重要なエネルギー源であり生命を維持するのに欠かせませんが、多すぎると細胞や組織を傷め、さまざまな臓器の病気を引き起こすもとになります。
 日本は世界有数の長寿国として知られていますが、糖尿病になると感染にかかるリスクが高くなったり、血液透析導入の原因疾患の一位を、糖尿病を原因とする糖尿病性腎症が占めていることなど、健康寿命(医療や介護に頼らず自立した生活ができる生存期)を短くすることがわかっています。
 また、不妊や低体重児出産など、高血糖は妊娠出産にも悪影響を及ぼします。
 やっかいなことに、高血糖になっても自覚症状はありません。合併症が発症して初めて気づく、糖尿病が相当進行しているがほとんどなのです。

糖尿病の怖い合併症「しめじ」と「えのき」

 高血糖状態では、血管の一番内側にある内膜という膜に傷がつきやすくなります。これにより炎症が起こり、血管が厚く硬くなる動脈硬化が進んでしまいます。
 血管は体じゅうに酸素や栄養を運ぶ重要な運搬路。これがぼろぼろになるために臓器や組織の機能が低下したり、傷の修復ができなくなり壊死したりなどの怖い合併症が全身に起こりやすくなります。
 おもな合併症は次の通りです。

  • しめじ
    し→神経の症状の「し」。
      感覚が鈍ったりしびれたりする。臓器を動かす神経も障害され、排尿困難や消化不良も。
      転倒や筋力の低下が起こることもある。
    め→目の症状の「め」。
      網膜に張り巡らされている細い血管に傷がつき、出血しやすくなる網膜症。
      悪化すると網膜剥離をきたし失明する恐れも。
    じ→腎臓の症状の「じ」。
      腎臓内には糸球体と呼ばれる毛細血管が集合した組織がある。
      ここに傷がつき機能が低下することで、体の不要物を尿として排泄されにくくなる。
      悪化すると尿毒症となり、透析治療が必要になる場合も。

  • えのき
    え→足の壊疽の「え」。
      神経障害により感覚が鈍くなると、傷口から細菌が感染しても気づきにくく、
      治りにくいことから組織が腐ってしまう。
      ひどくなると切断を余儀なくされることも。
    の→脳卒中の「の」。
      脳に酸素や栄養を送る血管が破れたり詰まったりしやすくなる。
      命に関わる発作を起こしたり、一命はとりとめても後遺症で介助が必要になる場合も。
      認知症も起こしやすくなる。
    き→虚血性心疾患の「き」。
      冠動脈と呼ばれる、心臓に栄養を送る太い血管が狭くなり詰まりやすくなる。
      狭心症による胸の痛みや、完全に詰まってしまうと心筋梗塞を起こし、
      一刻も早く処置しなければ命に関わる。

    加齢により進みやすい高血糖
    生活習慣も要因に

     糖尿病とその予備群である高血糖は、60歳以上に多く3人に1人以上とも言われています。
     歳をとると血糖値を調整するインスリンというホルモンの分泌量や機能が低下するほか、筋肉量が減少することも関わっています。糖は筋肉細胞にも取り込まれるため、筋肉量が少ないと行先がなく血液中にだぶついてしまうからです。
     余った糖は脂肪細胞に取り込まれ、肥満のもとに。特に内臓につく内臓脂肪が増えると、インスリンが効きにくくなり、さらに血糖値が下がりにくくなるという悪循環に陥ってしまいます。食事で炭水化物(糖質)を摂りすぎていればさらに拍車がかかります。
     運動量が減ることによる筋力低下や肥満も高血糖を進めてしまいます。

    <加齢で高血糖が進む要因>
  • インスリン分泌量や機能の低下
  • 筋肉量の低下
  • 内臓脂肪の増加
  • これらに食事(糖質の摂りすぎやタンパク質不足)、運動不足などの生活習慣の影響も加わり、高血糖が進みやすくなります。

高血糖が気になったら「食事」と「運動」で対策を!

 血糖値を下げる対策は、食事と運動が土台となります。
 まずは食事。血糖値を下げるには糖をとらなければ良いと、主食をまったく食べないなどの極端な食事制限をする人もいますが、これは間違いです。
 確かに糖質を減らせば血糖値は上がりにくくなり、太りにくくもなりますが、脳や体を動かすエネルギーとなる糖質は、人が生きていくために欠かせない栄養素です。やみくもに糖質を摂らないようにするよりも、栄養バランスのとれた食事を心掛けることが基本です。
 日本の伝統的な「一汁三菜」なら、肉や魚などの主菜、野菜の煮物や和え物などの副菜、サラダや酢の物などの副々菜、そして汁物によって、三大栄養素である炭水化物(糖質)、脂質、たんぱく質をはじめ、ビタミンやミネラルもバランスよくとることができます。

    <食事で心がけること>
  • 間食をやめましょう
    間食すると血糖値が乱高下しやすくなり、高血糖が進みやすくなります。
  • 主食(ご飯、パン、麺類)の量を一定にしましょう
    丼ぶりものはご飯の量が多くなります。お茶碗八分目程度を目安に。
  • 一汁三菜を、ゆっくりよく噛んで味わって食べましょう
    ゆっくり食べることで満腹感が得られやすくなり、高血糖を進める血糖値の急上昇も抑えます。
  • 野菜から食べましょう
    野菜は血糖値を上げにくい食材です。先に食べることで血糖値の急上昇を抑えることができます。
  • 夜8時以降は食べないようにしましょう
    夜は身体の活動量が減り消費エネルギーも少ないので肥満のもとに。高血糖も進んでしまいます。

 一方、運動のポイントは「食後」。食事をしたらすぐ横にならず動くことが、脂肪燃焼を高め肥満防止や血糖値降下につながります。
 身近な家事や通勤等、生活の中で体を動かす習慣をつければ一歩前進。もし、血糖値が気になったのをきっかけに運動を始めるなら、ちょっと汗ばむ程度のきつさを目安に。ウォーキングであれば1日4000歩~、食後に歩くようにすると糖や脂肪の燃焼が促されます。
 ただし長続きすることが大事です。慣れてきたら徐々に増やして1日10000歩を目指すと良いでしょう。
 なお、筋トレと組み合わせると脂肪燃焼効果がアップし、減量と血糖値低下に有用です。筋トレは2~3日に一度、筋肉に抵抗をかけるスクワットや腕立て伏せ、ダンベル体操などがおすすめです。

    <運動で心がけること>
  • 食後に家事(洗濯、掃除、皿洗いなど)をする
  • 食後に散歩や筋トレをする
  • ウォーキングなら1日4000歩を目標に、慣れたら徐々に増やす
  • 妊活中&プレママへ
    高血糖は不妊や流産、早産のリスク増

     血糖値を調節するインスリンは、卵子の発育や排卵にとっても重要なホルモンです。血糖値が上がりインスリンの分泌や働きが乱れると排卵障害をきたしやすいと考えられており、月経不順や不妊症の原因になりえます。
     また、糖尿病にかかっている人の妊娠を「糖尿病合併妊娠」といい、早産や巨大児/低体重児出産の恐れがあります。また生まれてきた子も将来、糖尿病を発症するリスクが高くなります。
     このように血糖と妊娠出産は深い関係がありますので、妊活中の人やプレママは、高血糖にならないよう、食べすぎなどによる急な体重増に気をつけましょう。
     なお、妊娠すると胎盤から妊娠を継続させるホルモンが分泌されますが、これはインスリンの作用を弱めるよう働くことがわかっており、誰でも血糖値が上がりやすくなります。妊娠中に血糖が基準値を超えると「妊娠糖尿病」となり、やはり早産や巨大児/低体重児出産のリスクが高まるため薬物療法(インスリン注射)や食事療法などによる治療の対象となります。

    お話を伺った方

    櫻岡怜子(さくらおか りょうこ)先生プロフィール

    世田谷内科・糖尿病総合クリニック院長

    櫻岡怜子(さくらおか りょうこ)先生

    糖尿病専門医、アンチエイジング専門医、食育プランナー、フードコーディネーター

    参考書籍

    『専門医がゼロから教える「糖尿病予備群」と言われたら最初に読む本』(自由国民社)
    『糖尿病専門女医が教える「妊娠と糖尿病」』(幻冬舎)

    記事執筆

    福田真由美様プロフィール

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